「動けばいいのになあ」

 ある晴れた日、午後のティータイムの準備をしていると、イギリスはふとそう漏らした。
 なにがです?
 イギリスの隣で彼の手伝いをしていた日本は、首を傾げ不思議そうにイギリスを見る。 日本が観光目的でイギリスのもとを訪れてから早4日。 楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、明日の早朝、日本は帰国することになっていた。 最後のティータイム、日本としてはこの滞在期間中で最も有意義なものにしたかったのに、イギリスはあまり気乗りがしないようだった。

 「…ん?あ、いや…」
 「…イギリスさん?」

 日本に問われると、イギリスは途端口を濁らす。
 私とのティータイムは、嫌でしたか?
 イギリスの正直な気持ちが聞きたくて日本はそう尋ねるも、日本の問いかけを耳にするや否や、イギリスは、

 「そんなわけないだろ…!俺は日本と一緒のこの時間が好きなんだ!」

 と、精一杯頭を横に振って否定してみせる。 彼の表情があまりに必死で、それでもそこから彼の本音を垣間見た日本は、心が徐々に温まるのを感じた。

 「あなたの言葉を聞いて安心しました。私はあなたに嫌われてはいないようですね」

 日本はダージリンの茶葉をティーポットに入れつつ、イギリスに笑顔を見せた。 彼の笑顔はイギリスにとって一種の起爆剤のようなもので、その微笑みを見るとイギリスは顔を真っ赤にし動揺せずにはいられない。

 「あ、あたりまえだろ!誰がお前のことを嫌いになるかよっ!」
 「では、どうして先ほど私の問いには答えて下さらなかったのですか?」
 「う、そ、それは…」

 それは?
 小首を傾げて可愛らしく上目遣いをする(これはあくまでもイギリスの脳に入った情報だ。若干妄想が含まれている)日本に、更に言葉を詰まらせるイギリス。 彼の頬はますます朱に染まって心臓は煩く拍動し、日本の質問に答えている場合などではない。 しかしここで再度日本の問いかけに答えなければ日本が落胆してしまうのは明らかで、イギリスはそれだけは避けたかった。 日本にじっと凝視されているこの状況下で上手く説明できる自信はないが、決意したかのようにイギリスはゆっくりと口を開いた。

 「わ、笑わないか、」
 「…笑う?なぜです?」
 「それは…、俺の考えていたことがあまりにも幼稚で、その…日本は笑うと思うから、」

 恥ずかしさから日本を直視することができなくて、イギリスは彼から視線を外したり戻したりを繰り返した。 その間も日本はイギリスの一言一言に親身に耳を傾ける。 ふ、と笑みを作り、

 「私はあなたの考えていたことが知りたいです。幼稚かどうかは分かりませんが、それでもあなたの考えたことですから、私は意味もなく笑いはしませんよ」

 と、優しくイギリスに告げた。 その言詞はイギリスの心の最奥を揺らすと同時に、イギリスが己の考えを言葉にして紡ぐ切っ掛けとなる。

 「…動くといいなと、思ったんだ」
 「動く?」
 「俺はヨーロッパで、お前はアジアで、なかなか会えない。でも俺たちは互いに島国だろ?…だから、お互いにちょっとずつ移動して、その、年一回とかでもいいから、ロシアの北の海の上とかで、会えたらいいなあ、と」
 「…!」

 や、やっぱり幼稚ってか馬鹿げてるよなこんな考え!忘れてくれ、これはお前にもっと会えたらいいなあなんて思ってる、ただの俺のエゴだから…!
 自分の本音を全て吐き出してしまったあと日本の反応がないことに、イギリスはしまったと後悔する。 やっぱり話さないほうが良かったのではないか。 馬鹿な奴だと、日本に呆れられてしまうのが一番怖くて、イギリスは懸命に弁明しようとした。 けれども、次の瞬間にはそれは必要ないのだとイギリスは知ることとなる。

 「ふ、ふふっ、」
 「に、にほん…?」

 イギリスの目の前には、彼の本音を嘲るどころか嬉しそうに頬を緩ませる日本の姿があった。
 嬉しいです。
 幸せいっぱいの笑みを、イギリスに贈る。

 「イギリスさんが、そうまでしても私に会いたいと思っていて下さって、私は幸せ者です。素敵な考えではないですか!そうしたら、一年のうちに数日は、あなたの隣にいることができるんですから。私ももっとイギリスさんに会えたら、もっとヨーロッパが近かったらと、どんなに思ったことでしょう」
 「…にほん、」
 「嗤うわけがありません。素晴らしいアイディアだと、そう思います。実際に動くことはできませんが、それでも、できたらいいなあ」

 遠くを見、憧れを抱く日本がひどく儚く見えて、イギリスは彼の小さな体を己の腕の中に収めていた。 それとともに、日本も自分と同じように会いたいと願っていてくれたことが嬉しくて、彼をきつく抱きしめた。

 「私は明日国へ帰ります。また暫く会えない日が続きますが、イギリスさんが教えて下さったそのアイディアが現実になるよう、流れ星にお祈りしたいと思います」
 「ああ、俺も、この地からお前と同じように祈るよ」

 日本はイギリスの返答に耳を傾けると、彼の背中に手を回し、そして

 「イギリスさん、大好きです」

 と、満面に笑みを湛えた。


イギリスの頭が幸福でショートするまで、カウントダウン開始。





お、俺もお前のことがす、好きに決まってるだろーがっ!






流れ星に願いを



(ほのぼの英日/恵さまへ!)

*special thanks* Sinnlosigkeitさま
 
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